本研究は、植物について気温や地質条件では説明できない不可解な分布様式を、繁殖における近縁種間の干渉によって統一的に説明することを目的とする。とくに、ゲンノショウコやミツバフウロ、ヒメフウロなど、フウロソウ属の近縁種間における繁殖をめぐる相互作用と分布の関係の解明を試みる。 本年度は、補助金の交付時点でほとんどの植物の花期が終了していたため、各種の分布や生育状況を調べる基礎調査、栽培実験や分子系統解析用のサンプリングなどを中心に以下のような調査を行い、一定の成果が得られた。 まず、フウロソウ属の分布状況については、標本や文献等から分布に関する情報を前データとしてまとめた。具体的には、全国の代表的な施設に収蔵された標本や文献、植物同好者への聞き取り調査から情報を入手し、データベース化を行なった。 その結果、ハクサンフウロやエゾフウロのように変種関係にあるもので、多くは分布が分かれているものの、ごく一部で同所的に生育する可能性があるものを確認した。また、以前国内では石灰岩地にしか生育しなかったヒメフウロが、最近全国的に発見されていることを確認した。 次に、これらの植物について、おもに近畿および東海地方において、複数の種が分布する地域や近縁種の分布境界を中心に現地に赴き、実際の分布状況の確認を行った。その結果、ミツバフウロとゲンノショウコでは、分布地が共通しているという記載があっても、実際には微妙に住み分けている現状を確認した。 この他、近縁種間での繁殖干渉や資源競争を具体的に測定するには、人工授粉実験および栽培実験が必要となる。しかし助成金交付時にはすでに花期が終わっていたため、上の基礎調査のため訪れた各地で、実験用の株および種子を採集した。また、各種の分布に関する歴史的変遷を調べるため、分子系統解析のためのサンプリングも行った。これらに関する実際の実験や解析は、次年度以降に行う。
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