植物の中には不可解な分布様式を示すものがあり、生物地理学的には謎だとされてきた。しかし最近、生物の分布を説明する要因として、繁殖干渉という現象が注目されるようになった。繁殖干渉とは、他種(とくに生殖機構が似ている近縁種)によって引き起こされる、繁殖過程における適応度の低下をいう。理論上では、片方の種の繁殖干渉が若干大きいだけでも、世代を比較的短期間繰り返すだけで生物の分布を塗り替えるような強い効果をもたらしうる。 繁殖干渉の研究は現在、外来種と在来種の関係を対象に進みはじめている。一方、この理論が野生植物の分布において考慮されたことは皆無である。そこで申請者はフウロソウ属植物を中心に、今まで不可解とされてきた野生植物の分布様式を、繁殖干渉で説明することを試みた。 特に平成25年度は、フウロソウ属の一部の分類群で分子系統解析を試みた。とくに互いに近縁であり、分類的にも不明瞭な区分となっているハクサンフウロ・ハマフウロ・エゾフウロについて、葉緑体DNAと核DNAの領域を用いて分子系統解析を試みた。その結果、現在までの解析ではこれらの分類群に明確な区分は得られなかった。分布様式や形態形質を含め、これらの分類群には再検討が必要と考えられる。 また、昨年度から継続調査を行ったミツバフウロとゲンノショウコについては、繁殖干渉が二種の局地的な棲み分けに影響を与えている可能性があり、これについて共同研究者とともに統計解析を行った。その結果、二種は有意に棲み分けている可能性が示唆された。これについては、現在論文を投稿中である。 フウロソウ属について今年度は論文を発表するまでには至らなかったが、この研究を通じて、繁殖干渉を生じると思われる他の植物について新たな知見を得ることができた。この知見は、フウロソウ属の分布様式にも繁殖干渉が重要な役割りを果たす可能性を高めるものとなった。
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