研究課題/領域番号 |
22570089
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (00177750)
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キーワード | ヒマラヤ山地 / インド亜大陸 / スリランカ島嶼 / マカク / 系統地理と分類 / ミトコンドリアDNA / 遺伝分化 / 生態と分布 |
研究概要 |
今年度は、当初計画に沿ってスリランカ島嶼のトクモンキーの遺伝子分析と系統解析を重点的に進め、さらにヒマラヤ山岳地帯のアカゲザルおよびアッサムモンキーの野生個体群から得た糞試料についても、遺伝子分析を行った。 スリランカのトクモンキー研究では、Charmalie A.D.Nahallage博士とMichael A.Huffman博士と共同で、新たに島内11地点から採取した試料の分析を行った。以前に収集していた13地点17野生群の血液試料についても分析し、スリランカ全島におけるこの種の系統地理的特徴を検討した。この結果、ミトコンドリアDNAで2つの系統が明瞭に区別でき、この2系統は形態や生態特徴から記載される亜種分類とは一致せず、生息地の標高帯と相関することを発見した。また、インド亜大陸のボンネットモンキーとの分化を検討すると、スリランカのマカクの分岐は1.6~3.2百万年もの古い時代と推定された。これは、陸橋が最後に消失した7千年前よりはるか以前の時代で、南アジアに分布するsinica種グループ全体の進化を考えるのに重要な知見である。これらの新発見を、スリランカで開催された国際シンポジウムで発表した。 ヒマラヤ山岳地帯のアッサムモンキーとアカゲザルについては、1月にネパールからMukesh Chalise博士を招き、共同で遺伝子分析を行った。また、同期に来日していたNahallage博士も加えてワークショップを開き、研究課題について議論するとともに、次年度の実行計画についても検討した。ブータンについては、前年度に発信器を装着したアッサムモンキー2群の行動域、構成、採食生態、周辺環境、の変化につき、現地共同研究者の協力で毎月モニタリングを行った。ヒマラヤ山岳地帯に生息するこのマカクの生態を解明するのに、貴重な記録であり、次年度に得られたデータを解析する予定でいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スリランカ島嶼とインド亜大陸のサルの関係につき、新しい発見があった。また、スリランカ島内では予想しなかった標高帯で区別される2系統の母系個体群を発見した。これらの知見は、sinica種群の種分化を説明する2つの対立仮説、つまりrecent commer仮説とold ancestry仮説、のうちold ancestry仮説を支持する結果と考えられる。さらに、本課題の舞台となる関係国の第一線で活躍する研究者たちとワークショップをもてたことで、問題意識を共有でき、課題への今後の取り組みに協力体制が固まったことは、大きな前進である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度を迎えるので、これまでの発見の論文公表を目指す。また、8月に予定されるアジアの霊長類に関する国際シンポジウムに共同研究者たちと参加し、この課題で得た知見を発表して議論を深めたい。ブータンでの生態研究については、年度の早い時期に現地を訪れ、共同研究者たちと1年間の研究の総括を行う計画でいる。また、バングラデシュの共同研究者と進めているアカゲザル都市個体群の生態遺伝学的研究は、重点的に遺伝子分析を進め、その成立過程や進化について、総合的に検討を進めてゆく予定である。
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