南アジアに広く分布するマカクのsinicaグループの構成種とアカゲザルにつき、野生個体群の生態観察およびmtDNA変異を探索し、系統地理的関係を調査した。スリランカのトクモンキー(Macaca sinica)では、地理的に区別できる2種類のmtDNAハプログループを明らかにし、近縁種のボンネットモンキー(M. radiata)から古くに分岐した単系統を構成する確証を得た。これは、第四期更新世にくりかえされたインド亜大陸とスリランカの陸橋形成より以前に、両種の祖先分岐が起きたことを意味する。また、島内で形態的ないしは生態的に区別できる亜種の分類と、2つのハプログループは対応せず、適応的な変化は祖先の系統地理とは独立に進んだことが解明できた。以上の結果を国内外の学会および国際シンポジウムで発表した。 ヒマラヤ山岳地帯ではアッサムモンキーの西方亜種(M. a. pelops)の地域分化につきネパールとブータンで遺伝および生態の調査を進めた。この地域のアッサムモンキーは東方亜種(M. a. assamensis)と明瞭に区別できること、新種と記載されたインドのアルナーチャルプラデーシュのサルたちもこの系統群に含まれること、を明らかにした。一方、ヒマラヤ山岳地帯の複雑な渓谷と山稜の構造と地域分化には、他研究者が想像している距離による隔離だけでは説明しにくい地域分化の構造が認められた。この進化的背景については、さらに調査が必要である。また、ブータンとネパールではアッサムモンキーとアカゲザルの生息域の重なりに顕著な違いがある。この原因が生態的要因か歴史的要因かについては、まだ十分に解明できていない。ブータンにおける通年の生態観察結果をまとめ国際シンポジウムで発表した。アカゲザルの調査結果については、バングラデシュ各地に孤立する都市個体群の分布および生態的特徴をまとめて論文公表した。
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