本年度は、基部単子葉植物とその姉妹群の一部、即ち、ショウブ科、サトイモ科の一部、キンコウカ科について葯、胚珠、種子の発生の研究を、キンコウカ科については花の解剖と発生の研究を行い、その結果をまとめてきた。その中でも重要な成果は、キンコウカ科(5属)の花には、子房の位置(下位、中位、上位)、子房室数の変異(1室、3室)、心皮の合着方法(後天的、先天的)、隔壁蜜腺の有無、花筒の有無、などにおいて属間で違いを明らかになったことである。さらに、Lophiola属を除く残り全4属の花の発生の観察によって、キンコウカ科では子房の位置が下位から上位(他では上位から下位への進化がふつう)へ進化したことが明らかにした。従って、キンコウカ科では、下位子房が原始形質である。また、系統解析結果に照らして、隔壁蜜腺の存在もキンコウカ科における原始形質であることを明らかにした。この2つの原始形質を単子葉植物全体のゲノム情報に基づく系統解析結果に照らして分析した結果、子房上位から下位への進化は基部単子葉植物(ショウブ目、オモダ科目、サクライソウ目)を除く真正単子葉植物の共有派生形質であること、真正単子葉植物内では子房下位から上位への逆転が何度も起きていることを明らかにした。隔壁蜜腺については、基部単子葉植物のショウブ目を除く単子葉植物全体に見られ、オモダカ目の一部、ユリ目(花被蜜腺をもつ)、イネ目とその類縁群で、合わせて3回隔壁蜜腺が喪失していることを明らかにした。 ゲノム情報に基づく系統解析結果を背景にして雌雄生殖器官の発生形質に「新しい」分類形質を探索する試みは、真正双子葉植物のモチノキ目、アブラナ目、ムクロジ目の一部についても行い、成果を発表した。
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