研究概要 |
本研究は,同種内(ハナガサノキMorinda umbellata)において雄性両全性異株(Androdioecy)と雌雄異株(Dioecy)という異なる性表現を示す集団を対象にして,これら性表現の進化の方向性や進化的要因を,系統学的視点ならびに送粉生物学的視点から解明することを目的とするものである.本年度は特に雌雄異株性を示す南西諸島の集団を対象にして,その形態的特徴や送粉様式の解明を進めてきた その結果,南西諸島の集団はいずれも機能的には雌雄異株であるものの,形態的には両全性と雄性を残していることが確認された.これは機能的に雄性両全性異株性を示す小笠原諸島集団に極めて似た特徴であり,あらためて両集団の形態的関連性を示唆する事実である.南西諸島集団の送粉様式を調査してみると,小型のハナバチ類,狩りバチ類,ハナアブ類,ツリアブ類,甲虫類,鱗翅類など,さまざまな昆虫の訪花が確認されたが,これらの中で有効な送粉昆虫は短い口吻をもつ小型ハナバチ類,狩りバチ類,ハナアブ類,甲虫類で,いずれも花蜜を主要な報酬に使っていることが確認された.雄花,雌花で生産される花蜜が顕著であったため,その花蜜量を小笠原諸島集団と比較してみると,南西諸島集団(雄花・雌花)では小笠原諸島集団(両性花・雄花)に比べて花蜜量が有意に高いことが確認された.一方,報酬としての花粉の有無を比較してみると,南西諸島集団の雌花は花粉をもたないが,小笠原諸島集団の両性花・雄花は常に花粉を有している.これらのことから,送粉昆虫への報酬の違いが,二つの集団間における性表現の違いに重要な役割を果たしている可能性が示唆された 今後は小笠原諸島集団の送粉様式についても解明を進める予定である.また,系統解析については周辺地域近縁種のサンプル採集を並行して進めながら,総合的に解析を進める予定である
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