研究概要 |
本研究はハナガサノキ(Morinda umbellata L.)の種内分類群間においてみられる性表現の違い,すなわち雌雄異株(Dioecy)と雄性両全性異株(Androdioecy)という異なる性型について,その進化の方向性や進化の要因を系統学的視点ならびに送粉生物学的視点から解明することを目的としたものである.雄性両全性異株という特異な性型への進化を解明することは進化生物学的にも重要な課題である.本年度は特に系統学視点からの調査に重点をおいたが,送粉生物学的調査も並行して行った. 系統解析においては,台湾,中国東南部,東南アジアを含む東アジア地域に産するハナガサノキ近縁種を用いて,葉緑体trnL-F領域,核ITS,ETS領域の塩基配列情報に基づいた分子系統解析を進めた.その結果,雄性両全性異株性を示すムニンハナガサノキ(M. umbellata subsp. boninensis)と雌雄異株である狭義のハナガサノキ(M. umbelllata subsp. umbellata)は,分類学的にはM. umbellataの種内分類群として扱われるにもかかわらず,それぞれは別のクレードに位置するため,系統的には離れていることが判明した.ムニンハナガサノキは,台湾や中国南東部に分布するM. parvifoliaと一つのクレードを形成した.この結果は二つの植物が近縁であることを示唆するが,葉形態を考慮すると全く予想外の結果である.得られた系統樹を考慮すると,ムニンハナガサノキは独立した種として扱うことが妥当と考えられた.また系統樹に個々の種の性表現を重ね合わせていくと,ムニンハナガサノキと姉妹群をなすM. parvifoliaは雌雄異株,またその外に位置する狭義のハナガサノキも雌雄異株である.この事実を考慮すると,ムニンハナガサノキにおいて見られる雄性両全性異株は雌雄異株から由来した可能性がある.これは理論的研究から示唆された方向性とも一致する傾向である.これらの成果は現在論文にまとめている.
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