研究概要 |
イソヨコバサミClibanarius virescens(甲殻亜門:軟甲綱:十脚目:異尾下目:ヤドカリ科)は、広くインド洋から西太平洋の主として熱帯域の硬質底潮間帯に分布するが、本年度においては沖縄の石灰岩質の隆起サンゴ礁に生息している熱帯域集団の個体と、本州の温帯域の火山岩または堆積岩質の岩礁に生息している温帯域集団の個体の遺伝的、生態的、形態的違いを調べる目的で、調査を行った。まずイソヨコバサミのmtDNAのCOI遺伝子を調べること、および生時の色彩、行動・生態観察を飼育観察下で行う目的で、沖縄本島のうるま市にある具志川河口周辺の潮間帯の磯で採集調査を行った。また連携研究者らと協力して、mtDNAのCOI遺伝子および形態を調べることを目的として、房総半島、紀伊半島、鹿児島の岩礁潮間帯で個体の採集をおこなった。これらの集団の標本は冷凍し、首都大学東京の青塚研究室に送り、DNAの抽出を行っている。また生きている個体は,神戸大学の朝倉研究室にて飼育を開始した。その結果、現在までに判明したことは、沖縄の集団の個体は鉗脚、第二歩脚、第三歩脚が緑色で、歩脚の指節に黄色いバンドが1本入る個体が大部分であるが、5%程度2本のバンドがみられる。一方、房総半島の集団の個体では、鉗脚、第二歩脚、第三歩脚が濃い藍色で、歩脚の指節に黄色いバンドが2本入る個体が大部分を占める、ということである。また微細な地理分布でみると、沖縄の集団は黒潮水のよくあたるサンゴ礁にはむしろ少なく、河口域近くなどの、あまりサンゴヤドカリ類が生息していない場所に多かった。一方、温帯域集団では、黒潮の流れが直接あたるような外洋性海岸に多かった。
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