本研究は、多細胞動物の系統上根幹にあるヒドロ虫類(刺胞動物)について、生殖体(子嚢またはクラゲ)の型や形成位置の異なる海産の数種を材料に、生殖細胞分化様式における多様性を明らかにすることを目的として行った。 平成24年度は、これまでの研究を継続するとともに、最終年度として研究の取り纏めを行った。その結果、従来ヒドロ虫類の生殖細胞は外胚葉起源とされていたが、それが内胚葉起源である種の存在が明らかとなった。また、生殖細胞の成長に関しては、2タイプ確認された。1つは、淡水性ヒドラのように、分化した生殖細胞のうち1つが周囲の生殖細胞を捕食して成長するタイプであり、もう1つは分化したすべての生殖細胞が内胚葉から栄養を摂りながら成長するタイプであった。また、複数種において生殖細胞(あるいは、生殖細胞に分化する間細胞)が内胚葉細胞間を移動し外胚葉に接すること、それらの細胞が接した部位の体表側に生殖体が形成されること、生殖体の形成に伴って生殖細胞がその中に取り込まれることが判明した。さらに、外胚葉に接触する生殖細胞の成長時期に違いがあり、それが生殖体の型と関連していることが明らかとなった。 最近の分子系統学的な研究では、刺胞動物において花虫類が祖先的でヒドロ虫類は派生的とみなされている。また、生殖巣(生殖体)は、花虫類では胃腔側に、ヒドロ虫類では体表側に形成される。これらのことから、ヒドロ虫類では、ポリプのボディサイズの縮小によって生殖巣の形成部位が胃腔側から体表側に移り、また、生殖細胞の成長過程などに違いが生じ、結果として生殖体の型や位置に多様化が生じたと考えられた。 今後は、花虫類も含めた刺胞動物において生殖細胞の起源となる細胞をさらに追及し、生殖細胞系列の分化様式が進化の過程でどのように多様化してきたのかを明らかにしたいと考えている。
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