本年度はさらに追加材料とするツルクモヒトデ類の標本を,日本周辺海域ならびに東南アジア(タイ,シンガポール)における調査で採集することにより新たに入手した.昨年度までおよび今年度に新たに得られた標本を材料として用い,従来から用いられてきた分類学的形質の観察,走査型電子顕微鏡による骨片の形態の詳細な観察,ならびに分子系統解析のためのDNAの採取を行った. 分子系統については,カバーする種数を増やし,さらに,これまでに得られていた核DNAの18S rRNA,28S rRNA,ミトコンドリアDNAの16S rRNAの部分配列に加えて,より精度の高い分子系統解析を行うために新たに配列を得たCOIの配列データも含めて解析を行い,ツルクモヒトデ類の科レベルの系統をより確実に明らかにし,分子系統と形態の双方に基づいた,新しい科レベルでの分類体系を提案した.新しい分類体系の提案は,ベルギーで行われた第14回国際棘皮動物学会議,日本動物学会第83回大会,東南アジアにおける沿岸海洋学に関する国際セミナーにおいて発表した. 分子系統解析によって,腕の分岐の進化は大きな系統とは無関係に独立して複数回生じてきたことが示唆された.腕の分岐に大きく関わる腕骨の形態と構造について,代表的な種間での差異を詳細に調べるため,走査型電子顕微鏡を用いることにより腕骨の観察を行った.また,X線CTスキャンによる三次元形態の観察,ならびに樹脂包埋標本を作成することにより硬組織と軟組織両方の断面像の観察を試みた. これらの成果を含む論文を投稿中である.
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