平成22年7月から8月にかけて、無人探査機ハイパードルフィン/なつしま調査航海をマリアナ島弧(日光海山、東日光海山、南西栄福海山、NW Rota)熱水域において実施した。その結果、NW Rotaでは、トウロウオハラエビを優占種とする熱水噴出孔生物群集が確認された他、個体数は少ないがユノハナガニも採集することができた。北西栄福海山では、頂上付近で熱水噴出孔を確認するとともに、シチヨウシンカイヒバリガイやヒラツノオハラエビ属エビ類、ミョウジンシンカイコシオリエビなどを確認したが、生物試料の採集はほとんどできなかった。日光海山のカルデラ内では、至るところで高密度の生物群集が確認された。サツマハオリムシ、ユノハナガニ、オウギガニの一種、トウロウオハラエビ、タギリカクレエビの一種、アズマガレイの一種、オオマユイガイが多数生息していた。また、サツマハオリムシのチューブを利用するヤドカリも採集することができた。東日光海山では、海底付近でゆらぎを確認したものの、熱水噴出現象の確認には至らなかった。山頂付近では、ヤギ類の群生が多く見られたほか、これまで報告例が少ない希少種を多く採集することができた。とくに、センジュエビの一種や深海性のシャコ類は、初めて海底での生態を撮影することに成功した。形態的な検討やDNAバーコーディングにより、ユノハナガニやトウロウオハラエビの新産地が確認され、その分布域がこれまで考えられていたよりも広範囲に渡ることが明らかとなった。マリアナ背弧海盆と島弧の熱水域は、地理的な距離が近いにも関わらず、生物相が大きくことなることが明らかとなった。また、ユノハナガニやトウロウオハラエビなどを生きた状態で採集することができ、産卵や幼生のふ化実験用として飼育継続中である。
|