研究課題
平成22年度の調査により北部マリアナ島弧で採集した熱水性甲殻類の飼育を継続した。産卵~幼生のふ化実験も試みたが、今年度は健全な幼生を得ることができず、走性や環境適正実験などは実施を見送った。過去の潜航調査により、伊豆・小笠原~マリアナ島弧にかけて採集されている熱水性エビ類の形態的な検討を行ったところ、既知種とは異なり未記載種であることが判明した。COIやITS遺伝子の解析結果からも、同様な結果が支持された。また、これまでに報告されている高次の分類形質(尾節形態)が、有効ではなく、形態学的な再検討を示唆する結果が得られた。また本年度は、オハラエビ類の視覚器官に着目し、その構造から視覚機能の分析に着手した。オハラエビ類の一種であるトウロウオハラエビの眼柄は短く中央で癒着し、視覚器官は白色で表面に個眼面は見られなかった。内部構造は最も外側に角膜を持ち、その下に肥大したラブドーム、次に発達した白色の反射性色素細胞が観察され、円錐晶体は欠如していた。この構造はツノナシオハラエビがもつ背上眼と差が見られなかったことから、トウロウオハラエビの視覚器官は集光できず、光学的な像形成は個々萎えないが、光に対する感度を上げ、熱水噴出孔から発せられる微弱な可視光を感知していることが示唆された。平成25年3月のハイパードルフィン・なつしま潜航調査により、大島南東に位置する大室ダシカルデラ水深200mにおいて新規の熱水噴出孔生物群集を発見した。このサイトでは、120℃の熱水が噴出しており、サツマハオリムシやカサガイ類、ナメクジウオ、ヒラノマクラ類、甲殻類としてはニシノシマホウキガニの一種が多数生息していた。本サイトは、伊豆・小笠原~マリアナ島弧に点在する熱水噴出孔としては北端に位置し、水深がもっとも浅く生物群集組成や地理的分布などを考える上で重要なサイトになる。今後の解析結果が大いに期待される。
3: やや遅れている
本研究の材料となるユノハナガニやトウロウオハラエビが生息する日光海山での潜航調査が認められず、新鮮な試料の確保ができなかったため、幼生などの飼育実験は十分に行うことができなかった。トウロウオハラエビの視覚機能については、解剖学的な見地からいくつかの新しい知見を得ることができた。また、平成25年3月に実施した潜航調査により、大島沖で新たな熱水噴出孔生物群集の発見は、これまでに知られている伊豆・小笠原~マリアナ島弧熱水分布域が、北方に250kmのびたこと、水深200mと浅い海域であったことから、熱水噴出孔生物群集の生物地理的要因を明らかにする上で重要なデータとなる。当初予定していたユノハナガニやトウロウオハラエビ幼生の飼育実験は、今後難しい展開となる可能性もあるが、新たにニシノシマホウキガニを採集することができたため、今後はこの幼生を用いた飼育実験を展開できる可能性がある。
平成22年度および24年度の無人探査機「ハイパードルフィン」調査潜航により採集したトウロウオハラエビおよびユノハナガニを引き続き飼育継続し、今年度も幼生のふ化実験を試みる。しかし、飼育している成体が経年の変化により、産卵回数も減り、これらの幼生飼育実験は難しくなることが予想される。一方で、平成25年3月に、大島南東沖に位置する大室ダシ水深200mにて、新たに熱水噴出孔生物群集を発見した。これは、これまでに情報のある伊豆・小笠原島弧の熱水域北端部(明神海丘)よりも250km北方に位置する。また生息水深もこれまでに知られている最浅(水深350m)のサイトよりもさらに浅所であった。大室ダシの生物組成情報も考慮して、伊豆・小笠原~マリアナ島弧の熱水性生物群集組成を解析し、その生物地理学的な特徴について考察する。また、ニシノシマホウキガニを多く採集することに成功した。サイズ組成や相対成長から繁殖様式について推定する。抱卵個体も活きた状態で多く採集することができたため、ユノハナガニなどと同様の実験を行う。オハラエビ類の複眼の退化傾向を概観すると、複眼の痕跡が明確に残っているグループとツノナシオハラエビ類のように背上眼となり、本来の複眼と著しく形態が異なるグループなどに分けられ、遺伝的な系統関係と相関があるというデータが得られている。24年度に実施したオハラエビ類視覚器官の解剖学的なデータに合わせて、ユノハナガニ類やシンカイコシオリエビ類の視覚器官の解剖学的なデータも取得し、熱水性十脚類の視覚機能について考察する。また、伊豆・小笠原~マリアナ島弧と同様な地質学的な背景にある北部ケルマディックの島弧の調査が、平成25年10月に予定されている。これらのデータも合わせて、島弧熱水性生物群集の地理的分布特性を比較するとともに、多様性メカニズムの解明に資する。
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Zootaxa
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