平成25年3月に大室ダシカルデラ内水深200mという浅海において熱水噴出孔生物群集を発見した。形態およびDANバーコーディングにより出現種の同定を行ったところ、その群集組成は伊豆・小笠原島弧浅海熱水性の群集と近似した。また、浅海の鯨骨生物群集として知られている種も初めて熱水域より確認され、群集の組成が水深に依存する傾向がみられた。大室ダシで優占的に出現するニシノシマホウキガニの飼育に成功し、抱卵固体からゾエア幼生のふ化に成功したが、2週間程度飼育したものの、ゾエアI期から脱皮成長は見られなかった。サイズ組成や性的二型などから、小型の個体から繁殖に参加することが明らかになった。 熱水性甲殻類の視覚器官に着目したところ、ユノハナガニの視覚器官は白色で、わずかに光受容膜が観察された。ゴエモンコシオリエビの視覚器官は硬い殻に覆われており、腹側にオレンジ色に光る線状の組織が観察された。オハラエビ類の視覚器官は白色またはオレンジ色で、背上眼と呼ばれる特殊な視覚器官をもつことが明らかとなった。オハラエビ科3種では最も外側に角膜を持ち、その下に肥大したラブドーム(光受容膜)が並び、円錐晶体は欠如していた。また、エンセイオハラエビの頭部組織からRNAシーケンスを行った結果、視物質の一種であるロドプシンが検出された。そのアミノ酸配列を決定し、系統樹を作成したところ、吸収波長が約496-533nmにある甲殻類ロドプシンと高い類似性を示した。エンセイオハラエビはラブドームを肥大化させることにより、光感度を高め熱水噴出孔から発せられる微弱な可視光を感知することが示唆された。 平成25年10月には、北部ケルマディック島弧の調査を行い、あらたにヒネプイア海山水深350mにて熱水噴出現象と生物群集を発見した。それら群集組成は、伊豆・小笠原島弧浅海熱水性の群集と近似していた。
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