研究概要 |
結晶構造解析の対象として、ラット由来フルクトーストランスポーターGLUT5を選定した。哺乳類細胞において細胞膜を介した糖の受動輸送は、促進拡散ヘキソース輸送体(GLUTs : glucose transporters)による受動輸送により行われる。GLUTsには14種類のアイソフォーム(GLUT1~14)が存在するが、それらのX線結晶構造解析は皆無である。GLUTsの構造を決定し、糖輸送の分子機構や基質認識特性の構造的基盤を明らかにすることにより、細胞内のヘキソース濃度の調節、ひいては糖尿病や生活習慣病の予防・改善に資する新たな知見が得られると期待できる。GLUT5は主として小腸上皮細胞のapical側に多量に発現し、消化管腔から吸収したフルクトースの血管内への取り込みに関わる。GLUT5ノックアウトマウスの解析から、この輸送体は小腸におけるフルクトースの吸収に必須であり、高フルクトース食摂取に起因する高血圧発症に深く関与するため,医学的に重要である。 scFv抗体ファージディスプレイ法を用いることにより、ラット・フルクトース輸送体GLUT5に対する複数のFv抗体フラグメントを取得した。Biacore解析から算出された結合の解離定数は1~3nMであった。GLUT5/Fv複合体はゲル濾過の溶出パターンにおいてシャープな単分散ピークを示した。GLUT5/Fv複合体結晶を作製し、放射光施設Spring-8にてX線回折実験を実施した結果、最高で3.2Åの分解能の回折データを得た。現在、回折分解能を上げるために結晶化条件の最適化を行っている。
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