研究課題
本研究の目的は、マルチドメイン蛋白質の機能を統合的に理解するための基盤の確立にある。あたかも単語(ドメインの機能)を組み合わせて新しい文章(蛋白質全体の機能)を作文するように、各部分を挿げ替えた分子を合成して検証し、理解を深める。本研究においては、微小管切断酵素であり新規抗癌剤開発などにも応用可能なkataninp 60(kp60)、抗ウイルス薬標的であるVps4、応募者らが独自に新規標的分子を同定した核小体AAA であるNv12を中心に、AAA-ATPaseの合成生物学研究を行い、動作原理を解明する。実験には、既存のタンパク質科学的手法に立体構造情報を高度に組み合わせるとともに、細胞生物学的手法も利用する。本年度は、クラスIに属するAAA酵素であるkatanin p60について、(1)その微小管切断活性がCa^<2+>イオンにより制御されること、(2)Ca^<2+>結合部位は微小管結合部位であるN末端ドメインにあること、(3)kp60のN末端ドメインに微小管またはkp80が結合すると、それを感知して、kp60のATP加水分解活性が上昇すること、(4)Ca^<2+>の存在は、その上昇分の活性を抑制すると同時に、微小管切断活性を阻害すること、について明らかにすることができた。また(5)これまで分子モデリングによる予測結果しかなかった微小管上のkp60結合部位がαチューブリンの第12番目ヘリックスであり、微小管保護タンパク質Tauの結合と生理的にも拮抗している可能性があることが分かった。(6)核小体に局在しribosome生合成を調節するクラスIIに属するAAA酵素Nv12についてその結合相手であるnucleolinに関して筑波大奥脇准教授と共同研究を開始した。
2: おおむね順調に進展している
AAA-ATPaseの異種分子間キメラタンパク質の構築とその生化学的解析に関しては、当初の予定よりも遅れている。これは主にkatanin p60の全長を用いた活性評価系の確立に時問がかかったためである。その一方で、kataninのCa^<2+>による制御機構の発見など、新たな知見が得られ、AAA-ATPaseのメカニズムに対する理解が深まった。
今年度は、(1)I型AAA-ATPaseのキメラ分子の創生とその活性評価から、マルチドメインタンパク質としてのAAA-ATPaseの作用機序に関する理解を深めるとともに、(2)Phagedisplay法を利用したAAA-ATPase結合ペプチドの新規探索と、(3)それを利用した特定の病態に関与するAAA-ATPaseを阻害することによる疾病治療戦略に関するproofof concept研究に着手する。(2),(3)について、題材としてVPS4,kataninp60,Nv12を、対象となる疾病としてはそれぞれ、ウイルス感染症、アルツハイマー症・パーキンソン症などの神経変性疾患、ガンについてを想定している。
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