大腸菌の蛋白質フォールディング反応を補助するシャペロニンGroEの作用メカニズムを理解するために,GroEの構成サブユニットであるGroELのドメイン構造に着目し,ドメイン構造を変化させる円順列変異法を活用してGroELの構造・機能相関を解明することを本研究の目的としている。 課題最終年の本年度では円順列変異体GroEL CP86を中心に実験を進めた。前年度までの実験では,CP86は変異導入の結果ドメインの構造変化をほとんど示さないことが明らかになっていたが,興味深いことにCP86はこの様な状態でも変性したリンゴ酸デヒドロゲナーゼのフォールディングを補助する能力を保っていた。実験の結果,CP86は変性蛋白質を結合した後に極めて早い段階でこの蛋白質を溶媒から隔離することができ,GroELの大規模なドメイン構造変化は変性蛋白質を溶媒から隔離したあとに誘発されている可能性が示唆された。 GroEの分子メカニズムはこれまで 「変性蛋白質の結合」->「ATPの結合」->「ドメイン構造変化」->「「蓋」となるGroES蛋白質の結合」->「変性蛋白質を格納する分子カプセルの形成」 という素過程が順序良く進行するメカニズムであると考えられていたが,本研究の成果はこの素過程の並べ替えを促す,あるいは根本的に性質の異なるメカニズムの存在を示唆する大変興味深いものであった。次年度以降の研究ではシャペロニンの分子メカニズムを「書き換える」可能性を追求するため,ストップト・フロー解析によるGroELの速度論的解析と機能アッセイを引き続き併用して様々な変異体での構造・機能相関を明らかにしていく予定である。
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