Hen Egg Lysozyme (HEL)の各S-S結合を欠損させた4種類の変異体の大腸菌発現糸を構築し、各精製タンパク質を得た。センサーチップ上に固定化した4種類の抗HEL抗体(ハイブリドーマ細胞から調製)との分子間相互作用を、表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いて解析した結果、いくつかの抗原抗体の組み合わせで、明らかに野生型HEL結合との違いが認められた。また還元アルキル化したHELと抗体の相互作用解析も行ったところ、結合速度依存的な結合力の低下が認められ、HELの結合構造の存在確率に依存する「population-shift」型の結合機構が示唆された。特にX線結晶構造ではnative HELと同様と報告された1つのアルキル化HELに対して、4種類の抗体の1つでは、明らかな結合力の低下が認められた。同抗体はそのアルキル化部位近傍を認識しており、結晶構造として観測される最安定構造ではなく、溶液中で存在する「ある結合構造」を特異的に認識することが明らかになった。また一般的にもタンパク質抗原の構造依存性エピトープの同定は困難であることを鑑み、本対象抗体のHEL上の抗体認識部位を簡便に同定すべく、重水素交換法と質量分析法を組み合わせた手法の開発に取り組んだ。その最初の段階として、HELをペプシンにより断片化する最適条件を決め、さらにHEL単独時と抗体との複合体形成時の重水素交換経時変化を解析した。後者については、最大で6Daの質量差が認められ、これはエピトープが抗体によりマスクされた差に相当すると考えられる。
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