蛋白質抗原として、Hen Egg Lysozyme(HEL)とOvalbumin (OVA)を、ハプテン抗原としてニトロフェニル基(NP)を対象とし、それぞれに対するモノクローナル抗体との分子間相互作用解析から、各蛋白質抗原や抗体蛋白質の動的挙動の解明を目指した。 1)HELについて、酸性pHでは熱変性後も可逆的に巻き戻るとされているが、同処理した酸変性HELと抗体の結合を、等温滴定型熱量計を用いて解析したところ、結合エントロピー変化量は不利に働き、これを補完するように結合エンタルピー変化量が有利に働くことが明らかになった。これはX線結晶構造解析結果として、酸変性HELでは少なくとも2種類の立体構造の混合物であることから、蛋白質が本来、溶液中で取りうる複数の構造を捉え得たものと考えられる。 2)OVAについて、アルカリ処理で得られるS-OVAと、新規に取得した14種類の抗OVA抗体との分子間相互作用を、主に表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いて解析した。その結果、すべての抗体がOVAとS-OVAを厳密に識別しており、うち4種類の抗体はS-OVAに対する結合力を失っていた。OVAとS-OVAの結晶構造は、Ser 3残基が異性化構造をとること以外、ほぼ同一であることから、これら部位特異的な構造の違い、あるいはその影響による動的構造の違いを、抗体が識別するものと考えられる。 3)抗NP抗体の一本鎖Fv抗体を大腸菌発現系を用いて新規に調製し、そのマイクロ秒からミリ秒スケールの動的挙動を高速X線1分子追跡法により解析した。親和性成熟前後の抗体、及び抗原結合前後の抗体の動的挙動を比較すると、成熟前の抗体、及び抗原結合前で、より大きな動きが観測された。この結果は、成熟前の抗体が結合力は弱いものの抗原を捕捉しやすい柔らかい状態にあり、抗原結合後は固い状態に移行する動的挙動変化を示唆する。
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