研究課題
2型ミオシン(ミオシンIIの2種類のアイソフォーム(IIAとIIB)が細胞内において、いかにして時空間的にフィラメントを形成し機能するのかを明らかにすることを目的とし、今年度は特に尾部が折り畳まれた10S構造と伸びた6S構造の変換の分子機構について新たな知見を得た。10S構造を形成する際に、平滑筋ミオシンにおいて調節軽鎖と結合することが報告された部位に相当する非筋細胞ミオシンIIBの部位を、10S構造を形成しない骨格筋ミオシンの相当配列に置換したキメラ変異体(IIB-NM)が、細胞が遊走する際に後方に取り残されるような挙動を示すことを昨年度に報告した。今年度は、この変異体(IIB-NM)の性質を詳細に調べた。(1)昆虫細胞発現系により調製したリコンビナントIIB-NMは調節軽鎖が脱リン酸化された不活性な状態でも、10S構造を形成するATP存在下の生理的塩濃度条件で、双極性のフィラメントを形成することがわかった。また、その際に観られたモノマーは6S構造を示していた。(2)GFP-IIB-NMとmCherry-IIB-WT(野生型)を同時に細胞に発現させ、ストレスファイバーが張っている同じ細胞内領域での挙動をFRAP法により解析したところ、GFP-IIB.NMの蛍光回復が常に遅いという結果を得た。(4)会合に重要である正電荷クラスターのP1の電荷逆転変異をIIB-NMにさらに加えた変異体IIB-NM-Plmは、細胞の遊走時に後方への極度の局在を示さなくなることがわかった。(5)IIA-NMも遊走時に前方にリクルートされにくくなるが、IIB-NMほど極度に後方に局在はしなかった。以上の結果から、遊走時にミオシンIIが前方にリクルートされるためには、モノマーになることが重要であり、10S構造はミオシンIIが不活性化時に会合してフィラメントになることを抑制する役割をもつということが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度、目的としていた以下の3点、(1)ミオシンIIAとIIBの自己認識機構、(2)ミオシンIIAとIIBの細胞内局在の分子機構、(3)細胞内での10S⇔6S変化の実態、の中で特に(3)に関して今後の研究の方向性を決められる興味深い結果が得られた。(1)と(2)に関しては、細胞質分裂時に注目し、IIAとIIBの異なる局在と、それを決める分子内領域がわかりつつある。
これまでの研究によって、2種類のミオシンIIアイソフォーム(IIAとIIB)の細胞内における時空間的なフィラメント形成には、それぞれのアイソフォームのC末端領域が重要な役割をしていることと、10S⇔6S変換が適切に行なわれる必用があることがわかってきた。さらに、それぞれのアイソフォームの会合能の違いも関与している可能性があり、今後は、これらを結び付けることができる解析が必用と考えている。具体的には、それぞれの現象に関わる分子内領域の変異を組み合わせた変異体の細胞内での挙動と、in vitroにおける解析を行なう予定である。
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Blood
巻: 119巻(4号) ページ: 1036-104
doi:10.1182/blood-2011-06-361907
Biochemical Journal
巻: 435 ページ: 569-576
10.1042/BJ20100837