新規ペルオキシダーゼファミリーであるDyP-typeペルオキシダーゼファミリーは、過酸化水素存在下で酸化反応を触媒するが、その立体構造や基質特異性などからは従来のペルオキシダーゼの範疇に入らず、また、幅広い生物種に分布することから、その生理的役割と分子進化の起源が注目されている。そのため、DyP-typeペルオキシダーゼファミリーを代表するDyPの触媒メカニズムの解明は、このファミリーの生理的役割の解明に大いに貢献すると考えている。平成22年度は以下の研究を行った。 1)触媒反応機構を解明するために、触媒残基であるアスパラギン酸(Asp171)の部位特異的変異体(Asp171Asn)を作製し、結晶化した。変異体の結晶は、野生型と同じ結晶条件で出現した。この変異体と野生型のDyPのそれぞれの結晶に、基質に見立てたシアノイオンを加え、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設にて、X線結晶構造解析を行った。その結果、ヘム上部に過酸化水素の通り道と考えられるキャビティーが発見され、さらにAsp171が、過酸化水素に対して酸塩基触媒として働く際に、Asp171側鎖のヒドロキシル基が構造的にスイングすることが明らかとなった。この動きは従来のペルオキシダーゼでは確認されておらず、スイングメカニズムと命名した。 2)DyPは、アントラキノン骨格を分解し、フタル酸を生成する事から、加水分解反応を触媒していると考えられた。しかし、この反応は、過酸化水素を加えなければ進行しないため、反応に関与する水分子は過酸化水素由来であると考え、実験を行ったが、現時点では水分子の由来は明らかになっていない。
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