平成24年度は、DyPの反応メカニズムの解明に焦点を当てた。DyPは、最近その存在が知られるようになったものの、自然界に広く分布していることが明らかになりつつある。一方で、従来型のペルオキシダーゼとは触媒残基や立体構造が全く異なる事もわかっている。そこで、DyPの触媒サイクルに伴う反応中間体の生成メカニズムについて、放射光を用いたX線結晶構造解析により解明した。まず、野生型DyP、ヘム鉄に配位することで、過酸化水素分子のモデル化合物となるシアン化合物をソーキングした野生型DyP、触媒残基であるアスパラギン酸をアスパラギンに変換した部位特異変異体D171N、シアン化合物をソーキングしたD171Nの各種結晶構造解析を行った。その結果、触媒残基のアスパラギン酸は、過酸化水素分子をとらえるためのアームのように働くことが明らかとなった。このアームの動きをスイングモデルとして提案した。 次に、一般的なペルオキシダーゼの基質とDyPが反応することを確認し、その結合部位を調べた。基質としてはアスコルビン酸と2,6ジメトキシフェノールを用いた。これらの基質をあらかじめ作製したDyP結晶にソーキングし、放射光X線結晶構造解析を行ったところ、両基質に共通の結合部位が1か所見つかった。この結合部位は、DyPの分子表面上に存在しており、DyPの分子内部にあるヘム領域とは、位置的には遠く離れているように見えた。しかし。この結合部位から、ヘム領域へは水分子などを介した水素結合ネットワークが存在し、このネットワークを通ってプロトンや電子の伝達が可能であり、これにより基質の酸化反応が可能であることを見出した。 平成22年度からの本研究を通じて、DyPの構造的な独立性が顕著となる一方で、このタイプの酵素、すなわちDyP型ペルオキシダーゼの報告例も増えており、今後の研究の進捗に注目が集まっている。
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