ラミニンによる細胞接着制御機構の解明に向け、移動細胞の尾部に観察されるretraction fiberと非常によく似た性質を示す“substrate-attached material (SAM)”に着目し、そのプロテオミクス解析を、LC-MS/MSにより行った。SAMとは、培養基質に接着した細胞をEGTA処理により剥がした際に基質に残る“細胞の足”のことである。その結果、四回膜貫通型蛋白質であるテトラスパニンファミリー蛋白質 (CD9、CD81、CD151) が多く検出されることがわかった。また、軸索ガイダンスの際に成長円錐の退縮制御関わる膜受容体であるNeuropilin-1およびPTPRFも多く検出された。これらの受容体は、上皮細胞の接着・移動の制御にも関与すると考えられている。これらの受容体を介して、ラミニン上における細胞接着および遊走が制御されている可能性が示唆された。 テトラスパニンファミリー蛋白質は、ファミリー蛋白質間および他の様々な細胞膜蛋白質と結合した上でラミニン結合性インテグリンと強く相互作用していることが知られている。平成24年度、テトラスパニンに対する抗体が、ラミニン上において、非常に強い細胞退縮を誘導することを見いだした。さらに、CD151に結合する蛋白質のプロテオミクス解析を、LC-MS/MSにより行った結果、細胞内小胞輸送に関わるSyntaxin-6、Scamp-3がCD151と結合することを見いだした。また、ラミニン上を遊走している細胞の後方端においてテトラスパニン陽性の細胞内小胞が非常に多く観察されることを見いだした。移動細胞の尾部におけるエンドサイトーシスが後方端におけるECMからの脱着や退縮に関与することから、テトラスパニンがこの制御に関与する可能性が考えられた。
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