研究概要 |
Cytochrome b561は、元々は、動物の副腎や脳組織中の神経系内分泌小胞膜に発見されたタンパク質であり、細胞質側と小胞内側にそれぞれ1つずつ合計2個のヘムを持った6回膜貫通構造をとっており、膜貫通電子伝達反応を行っていることがわかっている。近年、植物組織にも存在することが明らかとなったが、その生理機能については詳しくわかっていない。我々の研究により植物b561も細胞質側ヘムでのアスコルビン酸(AsA)からの電子受容と小胞内側ヘムでのモノデヒドロアスコルビン酸(MDA)ラジカルへ電子供与を行っていることが明らかとなった。H22年度はどのような分子内経路で電子伝達を行っているのか明らかにする目的で、2つのヘムの中間に位置し、分子内電子伝達に関与していると思われる膜貫通ヘリックス4において高度に保存されているGln134とPhe142それぞれの部位について3種、合計6種の部位特異的変異体(Q134Y,Q134F,Q134A,F142Y,F142W,F142A)の発現系構築・発現・精製を行い、パルスラジオリシス法による電子伝達反応の解析をした。その結果、どの変異体においてもMDAラジカルへの電子伝達速度および再還元過程での電子伝達速度の両方での低下が見られたが、特に前者での速度低下の方が顕著であった。H23年度は、これらの6種の変異体について、stopped flow法を用いてAsAからの酸化型ヘムへの電子伝達反応を解析した。pH5,6,7の何れにおいても、野生型とは電子伝達反応速度の大きな変化は生じなかった。これらの解析結果は、今回変異を導入したQ134、F142残基のアミノ酸側鎖が膜貫通電子伝達反応に直接的に関与するものではなく、むしろタンパク質全体の構造維持への寄与が大きいということを示している。よって、膜貫通電子伝達の際の経路は芳香環をホッピングする機構よりむしろ、ペプチド主鎖をトンネル効果により伝達する機構をとっている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)膜貫通型タンパク質Zea mays b561の2つのヘムの中間に位置する高度に保存されたGln134(Q134)残基とPhe142(F142)残基について、6種の変異体(Q134Y,Q134F,Q134A,F142Y,F142W,F142A)の発現・精製に成功したこと。(2)それぞれについて電子伝達反応をパルスラジオリシス法とstopped-flow法によりよる解析を行えたこと。(3)電子伝達反応の解析により、分子内電子伝達反応は芳香族アミノ酸側鎖間のホッピングにより伝わる機構より、むしろペプチド主鎖を介したトンネル効果によって行われているのではないかという結果が得られたこと。
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