研究概要 |
補体系の新たな活性化経路として発見された「レクチン経路」は、自然免疫に働く生体防御機構と考えられている。フィコリン(ficolin,FCN/Fcn)は、レクチン経路においてパターン認識分子として働くことが示されてきたが、その生理的役割は依然として不明である。本研究では、フィコリンのなかでも、ヒトなど霊長類にのみに見られるH-フィコリン(H-FCN)に注目し、その作用機構と生体内での働きを明らかにすることを目的としている。 本年度は、当初トランスジェニックマウスを作成する予定であったが、最近開発されたHydrodynamic pressure法によるin vivo発現(pIRCMVベクターとpFerHベクターをco-transfectする)がたいへん有効であることが報告されたことから、この方法を先に試みることとした。予備実験としてCHO細胞にtransfectし、作製されたリコンビナントH-FCNの生化学的性状を調べた。その結果、分子量、セリンプロテアーゼMASPとの結合、細菌との結合などにおいて、天然のH-FCNとほぼ同様の性状を示すことがわかった。次に、同じベクターをFcnA/FcnBダブル欠損マウスの尾静脈からHydrodynamic pressure法で注入し、H-FCNの発現を血清で調べた。その結果、H-FCNの発現が長時間(少なくとも2週間)観察された。また発現量も高く、血清中のH-FCNの性状も、ほぼ天然のH-FCNと同じであった。このことから、この方法はマウスの表現型解析に有用であることがわかった。 今後、H-FCNをin vivo発現したFcnA/FcnBダブル欠損マウスについて、レクチン経路の回復や細菌感染での生存率の回復などの表現型を調べて、H-FCNの役割を明らかにする。
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