我々は陽性荷電をもつヘパラン硫酸(HS)糖鎖GlcA-GlcNH_3^+(JM403抗原)が、細胞の増殖・分化・アポトーシスに応じその発現パターを変える事、その細胞質内発現は、癌の悪性度と相関する可能性が高い事を見出した。本研究目的はこの糖鎖の機能解明を行うと共に、この糖鎖発現が新たな癌バイオマーカーと成りうるかを追及する事である。 1 HS糖鎖の細胞増殖、分化及びアポトーシスにおける機能解析 白血病細胞株K562細胞を、フローサイトメトリーで調べるとJM403抗原発現はほとんど見られないが、ダウノマイシンを用いてアポトーシスを誘導すると発現上昇がみられた。この時HS糖鎖合成関連酵素群の遺伝子発現を調べたところ、EXT-1とGlcNH_3^+の合成への関与が示唆されているNDST-3の発現増加が見られた。現在細胞の種類を増やし普遍性を追及すると共に候補遺伝子群についてはRNAiを行い糖鎖発現への影響を解析している。また細胞内における本糖鎖発現については乳癌組織を用いて共焦点レーザー顕微鏡で詳細に観察した。この糖鎖は確かに細胞質に顆粒状に存在するが核には存在しない事が判明した。現在電子顕微鏡にてさらにその局在部位を解明中である。 2 癌の新規バイオマーカーとしての臨床的意義の解明 既存の増殖能指標であるKi67抗原との発現様式を詳細に比較検討した。JM403抗原はKi67抗原と共存している細胞も見られるが、細胞によってはどちらか一つの抗原のみ存在する細胞も少なからず認められた。この事からJM403抗原の細胞質内発現率はKi67ラベリングインデックスとは相関するが両者の発現は必ずしも同一の意義を持つものでないと考えられた。現在、JM403抗原の持つ独自の意味合いを、乳癌に大腸癌、膵癌を加えて検討している。
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