陽性荷電を持つ特異なヘパラン硫酸JM403抗原発現は細胞増殖・分化・アポトーシスと密接に関連しているのではないかと考え研究した。 i) JM403抗原の細胞内局在の再検討:ヒト乳癌細胞、ラット小腸上皮細胞を用い、JM403抗原の細胞内局在につき電子顕微鏡を用い免疫組織化学的に再検討した。その結果、双方とも局在はゴルジ装置と判明した。 ii) JM403抗原の胎児期・創傷治癒過程期における細胞内顆粒状発現 胎児のげっ歯類を用いJM403抗原発現を免疫組織化学的に検討した。腎臓では、JM403抗原の顆粒状発現は尿細管や糸球体原基の上皮と思われる細胞に発現し、一部はKi67抗原発現と一致した。肝臓では、Ki67抗原が血球系、間質系、肝細胞系の細胞を問わず発現するのに対し、JM403抗原は肝細胞系と思われる細胞の細胞質にのみ発現した。胃では、Ki67抗原が主に基底膜上の細胞に発現するのに対し、JM403抗原は更にその数層上層の、より分化したと思われる細胞にまで発現した。興味深いことに椎間板(線維輪)や神経系組織にでは、Ki67抗原発現細胞には、JM403抗原の顆粒状発現は観察されず、Jむしろ、通常ヘパラン糖鎖発現で見られる細胞外マトリックスに認められた。また、成獣皮膚創傷治癒モデルを用いJM403抗原発現を調べた。表皮ではJM403抗原は細胞質に顆粒状に発現し、一部はKi67抗原発現と一致した。一方同じ創傷治癒過程にありながら真皮側の線維芽細胞では、Ki67抗原発現細胞が多数認められるにも関わらずこのJM403の特異的な発現は、ほとんど見られなかった。 以上、げっ歯類を用いた胎児と皮膚創傷治癒モデルの実験からJM403抗原の細胞内顆粒状発現は、増殖・分化過程にある上皮系の細胞に特有の現象であると考えられた。この成果は第32回日本糖質学会で発表予定である。
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