女性ホルモンはシナプス可塑性を制御し記憶学習能を調節している。本研究は代表的な環境ホルモンのビスフェノールA(BPA) が海馬に及ぼす影響の解明を目的とした。本年度は周産期の母ラットにヒトのTDI(tolerable daily intake: 50 micro g/kg/day)以下の低用量BPA(30 micro g/kg/day)を経口投与して経胎盤及び経乳的(ED15-PND7)に仔をBPAに曝露し、成長後(8週齢程度)の海馬神経シナプス変化をスパイン(=後シナプス)を解析して調べた。BPA曝露ラットより摘出した海馬スライスの単一神経に色素を注入して樹状突起上のスパインを蛍光可視化し、共焦点顕微鏡で3次元像を取得し解析した。数理解析プログラムSpiso-3Dで頭部直径を厳密に解析した。オスでは、BPA非曝露群のスパイン密度は2.29(spines/micro m of dendrite)で、BPA曝露群では2.15に減少した。特に記憶能力の高いlarge-headスパイン(頭部直径0.5-1.0 micro m)の減少が目立ち、BPA曝露による記憶能力低下の大きな要因である可能性がある。一方、メスではBPA非曝露群では性周期に伴いproestrus期(2.33)→estrus期(2.04)→diestrus1期(2.33)→diestrus2期(2.04)と変化するが、BPA曝露群ではproestrus期で減少し、estrus期で増加して、性周期に伴うスパイン密度変動が無くなるよう変化し、BPA曝露オス(2.15)に近づいた。即ち、生殖器官等への影響が見られず危険性が低いとされてきた低用量でも、BPAの周産期曝露は成長後の海馬シナプスに顕著な影響をもたらした。現在北米や欧州でヒトの子供時代のBPA曝露の影響が成人で現れることが問題化しているが、その考察の一助になる。
|