モータ蛋白質による輸送穎粒の分子間協調メカニズムを探るために、DNAの2次元ナノ構造物(DNA-tile)上に多数の蛋白質分子を固定した"DNA-蛋白質ハイブリッドナノシステム"を構築した。本年度は、キネシンモータ蛋白質をモデル蛋白質として用い、1-2種類の蛋白質をDNA-tile上の任意の場所に固定し、作製したナノシステムの活性を蛍光顕微鏡下で評価した。まず、1種類の2量体キネシン分子モータをDNA-tile上に結合させたところ、DNA-tile上に結合させた数に応じて、連続歩行距離が伸びる事を見出した。一方、速度には変化が見られなかった。従来、輸送小胞などに結合している分子数の変化が連続歩行距離と速度のどちらに寄与するのかが明らかでなかったが、分子数を厳密に制御できるDNA-蛋白質ハイブリッドナノシステムを用いる事で、キネシンにおいては、多数分子が同時に働く事の効果は、主にナノシステム全体をレールから解離しにくくする事に寄与する事が明らかになった。次に、ナノシステム中に機能の低下した分子がいた場合に、システム全体の活性がどのように変化するのかを明らかにするために、野生型のキネシンと共に、ATP加水分解活性が低い変異体をモデル分子としてDNA-tileの特定の場所に結合させた。その結果、変異体の割合が増えるにつれて、システム全体の活性が低下した。この結果から、現状のハイブリッドナノシステムでは、システム性能を高い状態で維持するためには、システムを構成する全ての分子の活性を高く保つ事が重要である事がわかった。これらの結果は、DNA-tile上の任意の場所に目的の蛋白質を固定させたハイブリッドナノシステムの構築と、システム全体の活性評価が可能である事を示しており、多分子協調メカニズムを探る手法の基礎が確立した。
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