鞭毛・繊毛運動の分子機構はまだよくわかっていない。そこには、モータータンパク質であるダイニンがもつ固有の性質が関わっている可能性が高い。われわれはこれまでに、クラミドモナス鞭毛において、その軸方向の局在が異なるダイニンを複数見出した。このうち、根元に局在し存在量が微量なマイナーダイニンは鞭毛の屈曲形成に関与し、他のダイニンにはない特殊な性質を備えている可能性が高い。本年度は、まず、このダイニンの精製方法を検討した。遺伝子工学的にビオチン化したマイナーダイニンをアビジンビーズにより精製する方法を検討したが、あまり効率的に精製できなかった。そこで、特異的抗体を用いてダイニンを精製する方法を検討したところ、一部のマイナーダイニンの精製にこの方法が有効であることがわかった。現在、このダイニンがもつモーター活性を調べるためにin vitro motility assayの実験を行い、既存ダイニンとの性質の違いを比較検討している。当初計画していた電子顕微鏡によるダイニン分子の構造解析は、精製法の確立が遅れたため行えなかった。今後、精製したダイニンを用いて順次構造解析を行う予定である。ところで、クラミドモナスのゲノムには16種類のダイニン重鎖遺伝子が存在するが、これまでに同定された重鎖タンパク質は15種類である。本研究では、唯一未同定として残されていた重鎖を新たに見出し、その結果、単一の生物で初めて、すべてのダイニン重鎖を同定することに成功した。このマイナーダイニンのもつ性質を調べる実験も同時に行っている。
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