研究課題
ミトコンドリアで発生する活性酸素種はネクローシスを誘導する要因であり、また、実際にネクローシスが生じるかどうかは細胞のエネルギー状態に大きく影響される。そこで本年度は、ミトコンドリアに局在するプロリン異性化酵素シクロフィリンD(以下CypDと略す)の活性に着目し、CypDがC6グリオーマ細胞のエネルギー代謝や活性酸素種の発生に及ぼす影響を調べた。具体的には、C6グリオーマ細胞に野生型のCypDが過剰発現した細胞株(W)、酵素活性欠損型CypD(R97A)を過剰発現させてドミナントネガティブ効果によりCypDの活性が認められなくなった細胞株 (R)、およびこれらのベクターコントロール (V)を対象に、呼吸速度をクラーク型酸素電極で、乳酸生成速度を乳酸脱水素酵素の活性を計測するための市販のキットにより計測した。その結果、呼吸速度はW>V>R、乳酸の生成速度はR>V>WとなりCypDの活性が高いとミトコンドリアの呼吸速度が増大し、乳酸の生成速度が低下することがわかった。この結果は、CypDのプロリン異性化活性がピルビン酸のミトコンドリアでの代謝を促進させることを示している。野生型のCypDを過剰発現させた細胞株にCypDの阻害剤であるcyclosporin Aで阻害した場合も、同様の結果が得られた。ミトコンドリアでは電子伝達系に供給された電子が水中の酸素に漏れ渡ることで発生する。そのため、CypDのプロリン異性化活性がミトコンドリアにおける活性酸素種の発生を増大させ、ネクローシスを誘導する一因になっているのかもしれない。
2: おおむね順調に進展している
この2年間の研究により、シクロフィリンDがネクローシスを促進する原因を見出すことに成功した。特に、ネクローシスを誘導する酸化ストレスが加えられたときに、シクロフィリンDがミトコンドリアのダメージを増大させる理由を見出すことができたことは、本研究の目的に大きく貢献するものである。
昨年度までの研究により、シクロフィリンDはプロリン異性化活性により、ピルビン酸代謝を細胞質からミトコンドリアにシフトさせていることを見出した。最終年度は、プロリン異性化活性がピルビン酸代謝をシフトさせる秀子メカニズムを明らかにするとともに、代謝のシフトによりミトコンドリアでの活性酸素種の発生が増大していることを示す。また、シクロフィリンDのプロリン異性化活性が、活性酸素種の発生とは無関係にミトコンドリアの損傷を促進するメカニズムを、単一ミトコンドリアイメージングにより引き続き調べる。
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