ネクローシスは主要な細胞死の一種であり、その不適切な実行の抑制が期待されていえる。ミトコンドリアに局在するプロリン異性化酵素シクロフィリンD(以下CypDと略す)の活性が高い細胞では、ネクローシスが生じやすいことが知られている。CypDはシクロスポリンAなどで活性阻害が可能なことから創薬のターゲットと期待されているが、CypDがネクローシスを促進するメカニズムは明確にはわかっていない。 ミトコンドリアで発生する活性酸素種はネクローシスを誘導する要因であり、また、ミトコンドリアの電子伝達系から電子がリークして水中の酸素分子に渡ることで生じる。そのため、ミトコンドリアの電子伝達系に多くの電子が供給される状態は、活性酸素種の発生が起こりやすいと考えられる。 本研究代表者の太田らは、平成23年度までの研究で、ミトコンドリアに局在するプロリン異性化酵素シクロフィリンD(以下CypDと略す)の活性が高い細胞では、ミトコンドリアでの電子伝達が活発になっていることを示していた。そこで、平成24年度はCypDによって電子伝達が活発になるメカニズムを調べることを目的とした。 CypDはプロリン異性化活性を持つため、タンパク質のフォールディングやミトコンドリアへの輸送を助けると考えられたが、CypD活性の増加によるミトコンドリアのタンパク質量の増加は認められなかった。次に、ミトコンドリアへの蛍光色素の輸送をイメージングにより調べたところ、疎水性の高い蛍光色素は、CypD活性の低いミトコンドリアには輸送されにくい傾向が見られた。このことから、CypDの活性によって脂質などの疎水性分子のミトコンドリアへの輸送が大きくなり、結果として電子伝達が活発になっている可能性が考えられる。
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