アクチンは筋肉以外の真核細胞では最も大量に含まれ、筋肉でもATPase活性をもつミオシンに次いで多い。筋肉以外では、アクチンは動的に重合・脱重合し、約50%はモノマー状態にある。アクチン重合は、神経細胞の樹状突起の形成、がん細胞の浸潤や白血球の細胞移動、発生・分化のための細胞運動に必須である。海馬細胞では、入力信号の数秒後にシナプス直下でアクチン重合が起こり、記憶形成との関連が注目されている。このようにアクチンの機能は(1)ミオシンをはじめとするアクチン結合タンパク質との相互作用、(2)アクチン重合・脱重合反応に大別される。申請者はディクチオ型粘菌に変異型アクチンを発現させたところ、ホスト細胞は野生型アクチンを発現し続けているにも関わらず、細胞飢餓の際に細胞分化の異常が出ることを見いだした。遺伝学的にはDominant Negativeと呼ばれるこの現象を利用し、アクチンの機能的変異株をハイスループットに検出した。この株から精製した変異アクチンは重合能が顕著に落ち、ミオシンのATPase活性化も異常があった。これまで、ミオシン相互作用部位としてはアクチンの酸性アミノ酸残基が着目されてきたが、更に一般にアクチン結合タンパク質との相互作用を変える変異体をサーチし、その変異アクチンの性質を明らかにする。これまで、機能変異株から変異アクチンを分離した。アクチンC端とリンカーを切断して精製用のタグを除き、真のアクチン変異タンパク質を精製した。精製したアクチンの重合能を超遠心解析法で測定し、その低下を観察した。またミオシンATPase活性の活性化能を測定し、軽度に低下する変異アクチンとほぼ十分の一にまで低下する変異アクチンがあることがわかった。
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