アクチンは筋肉以外の真核細胞では最も大量に含まれ、筋肉でもATPase活性をもつミオシンに次いで多い。筋肉以外では、アクチンは動的に重合・脱重合し、約50%はモノマー状態にある。アクチン重合は、神経細胞の樹状突起の形成、がん細胞の浸潤や白血球の細胞移動、発生・分化のための細胞運動に必須である。海馬細胞では、入力信号の数秒後にシナプス直下でアクチン重合が起こり、記憶形成との関連が注目されている。 ディクチオ型粘菌に変異型アクチンを発現させたところ、ホスト細胞は野生型アクチンも発現し続けているにも関わらず、細胞飢餓の際に細胞分化の異常が出ることを見いだした。遺伝学的にはDominant Negativeと呼ばれるこの現象を利用し、アクチンの機能的変異株をハイスループットに検出した。 アクチンのチロシン143を変異させた株は飢餓誘導性細胞分化に影響がでた。フェニルアラニンに変異させた場合は子実体の柄が太く短くなり、トリプトファンにすると柄が細く長くなる。フェニルアラニンに変異させた株から精製した変異アクチンは重合能が顕著に落ち、ミオシンのATPase活性化も異常があった。そこで、このチロシン143に着目し、トリプトファンに変異させるとミオシンATPaseを活性化する際のKm値が低下し、ミオシンとの弱い結合が促進されることが分かった。逆にイソロイシンに変異させた場合は、ミオシンATPaseをほとんど活性化出来ないようになった。フェニルアラニン変異体ではミオシンATPase活性化への影響はわずかであった。変異後のアミノ酸側鎖の溶媒露出面積とミオシンATPase活性化が良く相関する。 このようにチロシン143はミオシンATPaseを活性化する際に重要な役割を示すことができた。チロシン143をトリプトファンに変異させたアクチンの結晶化に成功し高分解能での解析が進行中である。
|