研究課題/領域番号 |
22570170
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
春本 晃江 奈良女子大学, 理学部, 教授 (80198936)
|
研究分担者 |
洲崎 敏伸 神戸大学, 大学院・理学研究科, 准教授 (00187692)
|
キーワード | タンパク質合成 / 遺伝暗号 / 原生生物 / 翻訳終結因子 |
研究概要 |
翻訳終結因子はタンパク質合成の終了に関わる重要な因子であるが、終止コドンの詳細な認識部位は未だに明らかではない。これまでの報告から、eRF1のドメイン1は終止コドン認識ドメインで、異種のドメイン1を酵母の残りのドメイン2-3とキメラにすることで、酵母のアッセイ系で異種生物のコドン認識機能性を検証することが可能であることがわかっている。本研究は、繊毛虫のeRF1において、ドメイン1のどのアミノ酸残基が認識に関わっているのかを明らかにしようとしており、アッセイ系として(1)相補性試験と(2)Dual-luciferaseアッセイを用いている。これまでに、アミノ酸配列のアラインメントでの比較、およびKYGプログラムソフトにより、繊毛虫類の特異的な終止コドン認識に関わる残基は、ドメイン1のアミノ酸残基K25、R128、H134ではないかと考えている。そこで、3つの終止コドンを認識するリトストマ綱DileptusのeRF1を基にして、これらの残基を、UGAを認識しないEuplotesのeRF1と同じ配列になるように人為的に改変(K25N,R128I,H134C)し、酵母のアッセイ系を用いて、終止コドンの認識がどう変化するかを調べた。その結果、R128Iに改変すると、終止コドンの認識はEuplotes型になり、R128が終止コドンの認識に重要な役割をしていることがわかった。イタリア国カメリーノ大学のAdriana Vallesi博士と共同研究を行い、Euplotes raikoviのeRF1遺伝子をクローニングし、推定アミノ酸配列の決定を行った。このeRF1のドメイン1を基に上記の128番目のアミノ酸をRに変異させたが、3つの終止コドンを認識するようにはならなかった。また、LoxodesのeRF1のドメイン1は、UAA、UAGを認識しないことがわかった。繊毛虫の多くの種でeRF1のアミノ酸配列と終止コドン認識能力を調べるために、琵琶湖、南北大東島、稚内等において採集を行い、多くの繊毛虫の種を得て株として確立させた。今後はさらに終止コドンの認識部位を詳細に調べると共に、繊毛虫において終止コドンに変異が多くみられる理由を考察していきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
eRF1の終止コドンの認識に関わると考えられるアミノ酸残基を人為的に改変し、認識能力がどう変化するかを調べることにより、繊毛虫の特異的な認識に関わるアミノ酸残基を明らかにする目的はかなり達成された。また、繊毛虫の多くの種でeRF1のアミノ酸配列と終止コドン認識能力を調べる計画も進んでいる。これらの結果を総合して、繊毛虫の進化の過程でどのような道筋を経て、変則的なコドンが確立されてきたのか、繊毛虫において終止コドンに変異が多く見られるのは、どのような理由によるのかについても、新しい仮説を考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
繊毛虫のeRF1において終止コドンの認識に重要なはたらきをすると考えられるアミノ酸残基を変異させ、終止コドンの認識特異性がどう変わるかどうかをより詳細に検討する。また、繊毛虫のより多くの種でeRF1のアミノ酸配列と終止コドン認識能力を調べる。これまでの結果を総合して、繊毛虫の進化の過程でどのような道筋を経て、変則的なコドンが確立されてきたのか、繊毛虫において終止コドンに変異が多く見られるのは、どのような理由によるのかについても、新しい仮説を考えているが、これを実験的に検証したい。
|