普遍的な遺伝暗号では、UAA、UAG、UGAはポリペプチド鎖合成の終止コドンとして使用されている。しかし繊毛虫類の多くは変則的な終止コドンを使用している。このことにはクラスI真核生物翻訳終結因子(eRF1)の変異が関係していることが明らかにされてきている。本研究では、繊毛虫eRF1の終止コドンの認識に関わるアミノ酸残基を明らかにし、変則的なコドンが生じた要因とその過程について考察した。本研究では、3つの終止コドンを認識するDileptusと、変則的な終止コドン認識を行うEuplotes raikoviのeRF1の特定のアミノ酸残基を変異させ、終止コドン認識能力を調べることにより、終止コドン認識に関わるアミノ酸残基を同定することを目指した。様々な生物のeRF1のアミノ酸配列と、RNAと結合する可能性の高さを調べるKYGプログラムにより、eRF1ドメイン1にある終止コドン認識に関わる可能性の高いアミノ酸残基として、25番目のK、128番目のR、および134番目のHを候補とした。これらのアミノ酸残基をEuplotes eRF1 a-typeまたはb-typeと同じになるように変異(K25N、R128I、H134C、H134Y)を起こし、終止コドン認識能力を調べた。その結果、25番目のKと134番目のHを変異させたものでは認識能力はほとんど変化しなかったが、128番目のRをIに変えたものではUGAの認識能力が大きく減少し、Euplotes eRF1と同様の認識のパターンを示した。E. raikovi eRF1の128番目のIをRに変異させたところ、UGAをわずかに認識する傾向が見られた。これらのことから、ドメイン1の128番目のRは、繊毛虫eRF1においてUGA認識に関わる重要な残基であると考えられた。1つのアミノ酸残基の変異により終止コドン認識能力が大きく変化したことは興味深い。
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