熱ショック応答は-群の熱ショック蛋白質(HSP)の誘導を特徴とし、その転写制御に関わるのが熱ショック因子HSF1である。ショウジョウバエHSP70遺伝子の転写開始点周辺は、非ストレス状態でもGAGA因子が結合し、RNAポリメラーゼIIは転写開始点より数十塩基下流で停止している。つまり、熱ストレスなどの速やかに対応するために、あらかじめクロマチンは開き、RNAポリメラーゼIIはプリロードされている。しかし、高等動物細胞にはGAGA因子は存在せず、クロマチン構造変化に至るまでの分子機構についてはほとんど明らかにされていない。今回、我々はヒトHSF 1結合蛋白質の解析からDNA複製と修復に関与するRPA(Replication protein A)を同定し、それがクロマチン構造変化に必要であることを明らかにした。 マウス胎児線維芽細胞(MEF)のHSP70プロモーターにはあらかじめHSF1が結合し、RNAポリメラーゼIIがプリロードされていた。RPA1ノックダウンにより、HSF1の結合も、RNAポリメラーゼIIのプリロードもほとんど認められなくなった。さらに、ヒストンH3量が増加し、クロマチン凝集を示すピストン修飾が亢進した。RPAは、一本鎖DNA結合活性を示すが、その活性はHSF1のゲノムへの結合に影響を与えなかった。一方、酵母では、RPAがピストンH2A-H2Bの除去に関与するヒストンシャペロンであるFACTと結合することが知られている。実際に、MEF細胞でも、RPA1はFACTをリクルートすることでHSP70プロモーター領域のクロマチンを開いてHSF1の結合を助けることが分った。その結果、HSF1の転写活性化ドメインを介してRNAポリメラーゼIIが転写開始点の近くにプリロードされていた。以上の結果は、熱ショック遺伝子発現の誘導のための準備の分子機構を明らかにした。さらに、転写因子がゲノムへ結合する最初の段階の分子機構に重要な示唆を与える。
|