クロマチン構造形成はゲノム統合性と関連して厳密に制御される。本研究では、ヒストンバランス制御システムの分子基盤を解明するために、酵母をモデル系としたクロマチン形成の反応中間体である可溶性ヒストン複合体の機能解析を行った。22年度においては、分裂酵母で可溶性ヒストンH3/H4結合因子として同定したHiTAP1(Mlo2)の分子機能に焦点を絞り解析を進めた。HiTAP1はそのC末端領域に高度に保存された新規ヒストンH3結合モチーフを持ち、生理的条件下において従来解離しないとされてきたH3/H4を解離させるという驚くべき結果を得た。また、in vivoにおいても全長HiTAP1が優先的にH3と結合することを明らかにした。分裂酵母HiTAP1は生育に必須でないが、HiTAP1欠損株はH3大量発現に感受性となったことから、ヒストンバランス制御に関与することが示唆される。さらにヒトの可溶性H3複合体にもhHiTAP1が含まれることが確認された。この事実は、可塑的かつ動的なエピジェネティック制御において、全く新しいメカニズムを提示するものである。ヒストンバランスを含めたクロマチンダイナミクス制御の解明に向けて、さらにHiTAP1によるH3/H4分離の分子機構、およびその生理的意義について研究を進める予定である。 HiTAP1以外にも様々な条件における新規制御因子の生化学的探索とそれらの機能解析を組み合わせた基盤研究から、ヒストン分子を介した新しい品質管理システムの分子基盤を理解したいと考える。
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