哺乳類細胞核内の染色体複製の分子制御機構の解明を目指して、マウスDNAポリメラーゼαの温度感受性変異体tsFT20を利用し、ポルαの細胞内動態を解析した。tsFT20由来のポルα触媒サブユニットとEGFPの融合タンパク質のタイムラプス観察、光刺激型GFPによる追跡実験、種々の阻害剤を用いた解析、siRNAによるknock down実験等、を徹底的に行うことで、DNAポリメラーゼαの核内の品質を管理する二つの独立した機構を見いだした.一つの経路は、異常な核内のDNAポリメラーゼαが速やかにユビキチン化され、プロテアソームにより核内で分解されるメカニズムである.もう一つの系路は新たにタンパク質合成された異常なDNAポリメラーゼαには第二サブユニットが結合できず、細胞質に係留させると言う経路である.DNAポリメラーゼαの異常によりゲノムの不安定性が誘起されることが報告されており、ゲノムの恒常性を維持する為に異常なDNAポリメラーゼα(突然変異の結果、構造上異常が生じた分子)やバランスの崩れた複合体の品質が管理される機構が存在するのではないかと考察された。さらに、この分子機構が異常なタンパク質の除去に限定されるのではなく、細胞のストレス応答の一面を見ている可能性を検証している。即ち、細胞の老化、発生、進化とさらに、タンパク質の合成、成熟、輸送と分解のバランスを理解する上で必要不可欠な基礎研究として位置づけたい。
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