研究概要 |
哺乳類細胞核内の染色体複製の分子機構の解明を目指し、マウスDNAポリメラーゼαの温度感受性変異体tsFT20を利用し、ポリメラーゼαの細胞内動態を解析した。温度感受性変異株由来のポリメラーゼαをモデルとして,一過性過剰発現させたポリメラーゼの制限温度下(39.5℃)での分解を阻害する薬剤を探索した.その結果HSP90の阻害剤noboviocinが核内のポリメラーゼαの分解を阻害することを見いだした.さらに異なる作用機序のHSP90の阻害剤であるGeldanamycinやcumermycin,HSP70の阻害剤PES等でも制限温度下でのp180tsFT20の核内の分解が阻害された.この結果はHSP90のsiRNAによるノックダウン実験により確認された.一方,理研の今本細胞核機能研究室ではストレスに応じて核内に分子シャペロンが蓄積する事を見出しており,その知見も合わせて核内の品質管理機構は分子シャペロンに依存したタンパク質分解系により担われていることが推測された. 分子シャペロンは細胞質においてはタンパク質の変性を防ぎ,むしろ分解に拮抗する役割を担うと考えられており,核の中においては事なる役割を担うのではないかという想定外の結果が得られた.この結果がポリメラーゼαに特異的な現象かどうかが今後の大きな課題と考えられた。核内においてシャペロンに依存して分解される第2の例を見出す事が一般化に重要と考えられた.現在、いくつかの有力な候補因子を見出し、HSP90に依存した核内の分解系が関与しているかどうかを解析中である.この結果を合わせて核内品質管理機構の解析としてまとめたい.一方マウスRPAとYFPとの融合タンパク質を精製し、YFPの蛍光を利用してスライドガラス上に固定化させた一本鎖DNAを可視化した.複製工場の1分子観察の基礎技術として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DNA複製工場の観察,解析する為の必要不可欠なDNAポリメラーゼαの性状解析を進めた所,核内の異常タンパク質の除去機構を示唆する興味深い実験結果が得られた.核内の新しいタンパク質品質管理機構の解析は複製工場の制御機構を明らかにする事にもつながり,基礎科学的に常用な知見であり,その詳細の解明に専心しているところである。
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