研究概要 |
細胞は染色体DNAが損傷を受けた場合、DNA損傷チェックポイントを活性化して細胞周期を停止すると同時にDNA修復を行うが、DNA修復が正常に完了した後は、再び細胞周期を再開させる。この細胞周期を再開させる仕組み(細胞周期回復機構)は、その分子機構がほとんどわかっていない。本研究は、この細胞周期回復機構の分子メカニズムの解明を目指した。 12,000種の低分子化合物についてケミカルスクリーニングを行い、前年度までに細胞周期回復機構を阻害する候補化合物33種類を同定している。本年度は候補化合物について詳細な解析を行った。 候補化合物のケミカルデータベース解析から細胞周期回復機構の制御候補因子を同定した。候補因子の特異的阻害剤は、DNA二本鎖損傷およびDNA複製ストレスによるDNA損傷チェックポイントの回復を著明に阻害した。RNAi法により候補因子の発現を抑制するとDNA二本鎖損傷によるDNA損傷チェックポイントの回復が著明に遅延した。この阻害効果はDNA修復反応には非依存的であった。これらの結果からこの候補因子がDNA損傷からの細胞周期回復機構を特異的に制御する分子であることがが明らかとなった。 また、最終候補化合物による腫瘍細胞増殖抑制能を調べた結果、DNA損傷チェックポイントの回復を阻害する化合物の多くは、単独で著明な腫瘍細胞増殖抑制効果を有していた。解析を進めた結果、この腫瘍細胞増殖抑制はDNA複製時にDNA損傷チェックポイントの活性化が亢進されたためであることが分かった。さらに、マウス癌移植モデルを用いた解析から候補化合物のうち、個体レベルで腫瘍増殖を抑制する化合物を同定することができた。 以上の結果から、本研究では細胞周期回復機構に関与する分子の同定に成功し、阻害剤による腫瘍増殖抑制効果から細胞周期回復機構が新しい抗癌剤ターゲットとなる可能性を示すことが出来た。
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