本研究は、その細胞内局在ががんの転移性に重要な意味を持つSnailを対象として、亜鉛イオンおよびimportinαによる細胞内局在制御機構の詳細を分子レベルで明らかにし、その成果をがん細胞における転移性を判断する指標作りにつなげていくことを目的としている。ここまでの研究により、Snailの核内輸送はimportin β1によって担われるが、核移行シグナル受容体であるimportinαがimportin β1と競合的にSnailに結合することにより、Snailの核移行効率を低下させることを明らかにした。このimportinαによるSnailの核局在制御機構は、生細胞内におけるSnailタンパク質の安定性に重要な役割を担っていることも判明した。核輸送因子であるimportinαがある種のタンパク質の核移行を直接阻害するという現象は、当該分野のみならず、広くインパクトを与えるものである。また、Snailは亜鉛結合部位を複数持ち、この領域が核移行に必須である。そこで、この領域に変異を導入し、亜鉛の結合を阻害させると核移行活性が大幅に減少することを見い出した。細胞内の亜鉛は細胞膜上に存在する亜鉛トランスポーターによって調節されていることから、A549細胞において、亜鉛トランスポーターのひとつであるZIP6/Liv1をsiRNAを用いてノックダウンさせると、Snailの細胞内タンパク量が減少し、細胞の移動性も低下することが分かった。現在、亜鉛トランスポーターの発現量とSnailの発現量・細胞内局在等との相関関係を検討中である。
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