研究概要 |
粘液細菌は、飢餓になると胞子からなる子実体を形成するという集団行動をとる細菌で、複雑な情報伝達機構を有することが推定される。一方、細菌のタンパク質のリン酸化を介した情報伝達系、特に真核生物様キナーゼ/ホスファターゼに関しては不明な点が多く残されている。そこで、今年度はSer/Thr/Tyrホスファターゼの機能解析とcAMPを介した情報伝達を明らかにするため、cNMP分解酵素の機能解析を行った。 Ser/Thr/Tyrホスファターゼの機能解析:真核生物のSer/Thr/Tyrホスファターゼと相同性の高いホスファターゼ(Pph3)を選択し、酵素学的諸性質を検討したところ、本酵素はMn依存性でオカダ酸に阻害を受けないこと、リン酸化スレオニンペプチドを最も良い基質にすること、そのKm値はほ乳動物のPP2Cとよく似ていることなど、真核生物のPPMファミリーのそれらとよく似た性質を有していた。また、pph3遺伝子破壊株は、飢餓条件下で未成熟な子実体を形成し、最終的な胞子数は野生株の45%程度であったことから、本酵素は飢餓時の胞子及び子実体形成に関与していると推定された。cNMP分解酵素の機能解析:我々はcNMP分解酵素のclass 3に属する同酵素2種の酵素学的諸性質と機能を既に報告している。今回は真核微生物及び一部の細菌で報告されているclass 2のcNMPホスホジエステラーゼ(PdeE)の酵素学的諸性質を明らかにしたところ、本酵素はcAMP及びcGMPを基質としたほか、NTP,NDP,NMPなどに対し脱リン酸化活性がみられ、飢餓24-48時間後に最も発現が多かった。また、pdeE遺伝子破壊株は、飢餓条件下で子実体及び胞子形成が1日程遅れたが、最終的な胞子数は野生株と同程度であった。本酵素は本菌における最初のcGMP分解酵素の報告例となった。
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