研究概要 |
本研究の目的である、生体膜上におけるPIP3結合蛋白質ドメインの高次構造変化および細胞内情報伝達機能の制御の解析をふまえ、前年度までにSWAP-70のPIP3結合ドメイン(PHドメイン)の高次構造がPIP3を介した脂質膜への結合によりSWAP-70の細胞内局在の制御に寄与しうる特徴的な構造転移を示すことを見いだした。本年度は、脂質膜上における構造変化の機構を解析することを目的として、SWAP-70 PHドメインの表面に位置するトリプトファン(Trp)残基およびフェニルアラニン(Phe)残基を対象に、主に蛍光分光による解析を行った。芳香族残基の側鎖は脂質二重膜の疎水部位と親和性が高く、脂質膜と相互作用することでPHドメインの構造変化を誘起する可能性が考えられる。野生型SWAP-70 PHドメインのTrp残基の蛍光スペクトルは、脂質膜への結合により蛍光波長と強度の変化を示し、Trp残基(Trp227, Trp231, Trp294)側鎖のいずれかの局所環境が脂質膜結合により疎水的になることを示唆した。そこで、蛋白質表面に位置するTrp227およびTrp231にTrp227→Phe (W227F)およびTrp231→Phe (W231F)の変異を導入し、脂質膜結合親和性および蛍光スペクトルの変化を解析した。W227F変異PHドメインは脂質膜への結合親和性を失い、Trp227側鎖がPIP3結合サイトの構造維持に重要であることが示された。W231F変異PHドメインは、野生型と同程度のPIP3結合親和性を示した。Trp231の置換による蛍光スペクトルの変化から、Trp231の蛍光が水溶液、脂質膜上いずれにおいても効率的に消光されていることが示された。このことから、蛍光スペクトルにより観測される脂質膜結合時における構造変化は、Trp227またはTrp294の状態変化に帰属された。
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