これまでの研究において、膜損傷を受けた細胞では転写因子CREBの活性化が誘起されることを見出してきた。それに加え、損傷を受けた細胞の近傍に位置する細胞でもCREBの活性化が誘起されることが確認されたので、損傷を受けた細胞の近傍の細胞でCREBの活性化に至るシグナル伝達経路を検討した。 CREBの活性化を評価するために、マーカー色素fluoro-emerald存在下でMDCK細胞のモノレイヤーを注射針でひっかき、細胞膜に損傷を与えた。その後固定し、抗リン酸化CREB抗体による免疫染色を行った。 まず、ATPによる情報伝達の可能性を調べるため、ATP加水分解酵素apyrase存在下で細胞膜損傷を与えたが、損傷を受けた細胞の近傍の細胞でCREBの活性化が認められた。次いでギャップジャンクションを介した情報伝達の可能性を調べるため、阻害剤carbenoxoloneを用いたが、CREBの活性化が認められた。一酸化窒素(NO)の関与を調べるために、NO合成阻害剤L-NAME存在下で細胞膜損傷を与えたところ、損傷を受けた細胞ではCREBが活性化されていたが、その近傍の細胞ではほとんどCREBが活性化しなかった。さらにNO消去剤carboxy-PTIOを用いて、溶液中のNOを除いたところ、損傷を受けた細胞でのみCREBの活性化が認められた。NOドナーNOR3を培地に添加したところ、細胞膜損傷無しにCREBの活性化が認められた。 以上の結果から、細胞膜損傷を受けた細胞が産生するNOが近傍の細胞に作用し、CREBの活性化をもたらしていることが明らかとなった。さらにcGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)を阻害してもNOの阻害と同様の効果が認められ、NO-cGMP-PKGの経路がCREBの活性化に関与していることが示唆されたので、今後詳細に検討していく予定である。
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