上皮極性に強く関わる因子について、さらに知るためには網羅的なRNAiをする必要があり、それは予算の点で現段階では不可能である。そのため、上皮極性の性質をさらに追求する実験を行った。 1: R2/7細胞を培養プレートに吊るした液滴の中で培養すると、重力に従って細胞が液滴の底である、培養液と空気との界面に集合する。その界面は固い基質ではない。このとき、R2/7細胞は、一つ一つがめいめい勝手な方向に極性を形成していた。上皮極性の形成に細胞外基質が重要であることは知られていたが、この実験から、上皮極性の形成自体には細胞外基質の位置情報は不要であることがわかった。しかし、細胞外基質が培養基質表面にコートされていれば、上皮極性は綺麗に揃うのだから、細胞外基質はそれぞれの細胞が持っている上皮極性の軸を揃える役割を果たすということが明瞭になった。 2: R2/7細胞をノコダゾール存在下で培養し、微小管を破壊したところ、上皮極性を示すリングが消失する傾向を示した。このことは、微小管が上皮極性の形成に重要なことを示し、細胞周期の分裂期において上皮極性が消失するのは、1の実験から基質との接着が弱くなるためでなく、微小管のネットワークの様態が分裂期に変化するためと考えやすいと思われた。 3: R2/7細胞のアクチン繊維をイメージングするためにLifeAct-TagRFPを遺伝子導入し、安定発現株を得た。そのライブイメージングにより、上皮細胞極性を示すリングは常にアクチン繊維が細胞周辺から細胞中央へ動いていき、環状に集まる結果であることがわかった。リングは動的なものである。
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