本研究では、細胞骨格制御に関わる低分子量Gタンパク質「Rac」の新規エフェクターとして単離したRIN-1の機能解析を通して、このタンパク質を介した複数の低分子量Gタンパク質群の活性化や空間的配置のクロストークの実態を明らかにする。さらに、神経細胞の移動や軸索伸張といった形態形成において、これらのクロストークがガイダンス分子特異的な細胞骨格の制御を導いている新規メカニズムを確立することを目的としている。 今年度は、RIN-1、CED-10/Rac、Rab-5、アクチン、ガイダンス分子受容体であるUNC-40/DCCおよびSAX-3/Robo等を蛍光タンパク質に融合させ、線虫神経細胞に発現させた形質転換体を作成した。これらの形質転換体を用いて、各タンパク質群の挙動を正常個体あるいは各遺伝子の突然変異体内で観察した。その結果、RIN-1はRacやRab-5、両ガイダンス分子の局在には影響しないが、アクチンの勾配分布を制御している事が分かった。したがって、RacとRab-5の間の局在に関しての機能的クロストークは現時点では明らかでない。また、活性型変異を導入したRAB-5の発現によるrin-1変異体の表現型が回復されない事から、機能的にもRIN-1はRAB-5の活性化を必要としていない事が示唆された。各変異体における軸策伸長の表現型の解析から、反発性因子のSlitの下流でRIN-1が機能している事を明らかにした。この結果は、反発性ガイダンス分子を受け取る細胞領域で、RIN-1はアクチンの集積を抑制することでその方向への細胞移動や軸策伸長を抑えていると推測できる。この結果は、RIN-1による細胞移動の新規メカニズムを明らかにした初めての報告となる。
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