研究課題/領域番号 |
22570198
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
美濃川 拓哉 東北大学, 大学院・生命科学研究科, 准教授 (60400305)
|
キーワード | 発生調節遺伝子 / 遺伝子ネットワーク / 水腔動物 / 棘皮動物 / 進化 |
研究概要 |
本研究は棘皮動物の幼生神経系:頂器官をモデルとして、器官形成過程における発生調節遺伝子ネットワーク(GRN)の解明と、生物進化過程におけるGRN改編の分子機構の解明を目指している。祖先型頂器官GRNの進化過程では原腸胚期動物半球側で発現するTbrが重要な役割を果たしていた可能性があるので、本研究は特にTbrの原腸胚期動物半球における発現に注目して研究を進めている。 平成23年度の成果は以下のとおりである。 課題1:頂器官でのTbr発現は棘皮動物進化過程の「いつ」失われたか? 原始的ウニ類であるキダリス類ノコギリウニからTbr相同遺伝子の全長cDNA配列を明らかにした。遺伝子発現パターンの解析から、キダリス類のTbr遺伝子は原腸胚期動物半球では発現しないことがわかった。この結果は、現生ウニ類の共通祖先が原腸胚期動物半球でのTbr発現を失ったことを強く示唆する。 並行して原始的棘皮動物とみなされている有柄類トリノアシおよび半索動物ミサキギボシムシからのTbr相同遺伝子の全長cDNAの単離も試みた。全長cDNAはいまだに得られていないが、ミサキギボシムシ浅虫産個体群の産卵期を特定したことは研究遂行上、重要な成果である。 課題2:ヨツアナカシパン頂器官におけるTbr発現「再獲得」機構の解明 PjTbr遺伝子の翻訳開始点より上流約1kb(ここに基本プロモーター領域が含まれると予想される)のゲノムDNA領域の転写調節能の解析を開始した。リポーター遺伝子:GFPと当該ゲノムDNAの融合遺伝子をヨツアナカシパン胚に導入し、GFPの転写活性化の空間的・時間的パターンの解析を開始した。 課題3:PjTbrの頂器官形成過程における役割の解明 PjTbrの機能解析実験に向けた基礎情報として、頂器官領域の神経細胞分布様式を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1のうち、トリノアシからのTbr相同遺伝子の全長cDNA単離と課題3については実験動物の受精卵が十分に得られなかったため、若干進展が遅れている。ただし、課題1に関連して、キダリス類に関する研究が予想以上に進展した。そのためプロジェクト全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度は主要実験動物であるトリノアシとヨツアナカシパンの成熟に問題があり、胚を用いた実験に支障を来した。成熟不調の原因は不明である。この事態を考慮し、24年度はより柔軟な研究計画をたてている。実験動物の成熟に問題がない場合は当初の計画通りに進めるが、前述2種が不調の場合、ミサキギボシムシ、ノコギリウニ、オカメブンブクを用いた研究に重点を移す。ミサキギボシムシは新口動物における頂器官GRNの進化を研究する上で極めて重要な材料であり、当初の申請段階で計画した内容について重点的に研究をすすめる。 ノコギリウニとオカメブンブクは当初の研究提案には含まれていないが、初期胚形成GRNが他のウニ類と大きく異なっている可能性があり、GRN再編の研究に好適な材料である。主要研究材料の調子によってはこれらの材料を用いたGRN再編研究へ計画を変更する可能性がある。
|