小脳は、円滑な運動の制御や学習を司る中枢神経である。さらに近年の研究によって情動などにも重要な役割をしていることが分かってきた。本研究では、小脳神経細胞の発生過程と神経回路形成の分子メカニズムを解明するために、ゼブラフィッシュ変異体を作成し、解析してきた。本年度は、変異体の詳細な表現型と分子機構の解析を行った。shiomaneki変異体は、IV型コラーゲンa6を欠失している。IV型コラーゲンa6は、主に皮膚に発現しており、基底膜の構成要素である。この変異体は、顆粒細胞の軸索である平行線維の走行に異常がみられる。インテグリンa5、フィブロネクチン変異体においてもshiomanekiと同様に平行線維の異常が見られた。また、IV型コラーゲンa6と複合体を作るIV型コラーゲンa5の変異体(dragnet)においても同様の異常がみられた。以上のことから、基底膜と神経細胞の相互作用が軸索の適切な成長と走行に関与していることが示唆された。 gazami変異体は、顆粒細胞の形成が著しく阻害される。この変異体は、cfdp1遺伝子の機能欠損であることを明らかとした。Cfdp1遺伝子は、核内タンパクをコードしており、生後1日目において前方神経系に強く発現していた。gazami変異体では、小脳を含む前方神経系で細胞増殖が亢進していた。さらに同じ領域でアポトーシスを起こす細胞が有為に増加していた。また、この変異体では顆粒細胞前駆細胞の形成は正常であった。これらのことから、Cfdp1は、顆粒細胞への分化あるいは小脳神経細胞の増殖過程で重要な役割を果たしていると考えられた。 以上の結果から、これまでに報告のない分子メカニズムが小脳神経発生と回路形成に関与していることが明らかとなった。今後、これらの変異体の解析を進めることによって小脳神経発生メカニズムに新たな知見が得られると考えられる。
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