研究概要 |
ショウジョウバエの中腸は内胚葉性の上皮と,それを裏打ちする内臓中胚葉から構成され,上皮は部域ごとに固有の細胞型へと分化する.内臓中胚葉ではHOX遺伝子群が体節部と類似したパターンで発現している.HOX遺伝子群が内胚葉の細胞分化の制御にどのように関わるかの解明が本研究計画の目的である.平成22年度は,内胚葉の部域特異的分化マーカー遺伝子の探索と,それらの遺伝子のHOX遺伝子に対する応答性の解析を中心に研究を行った.その結果, 1.胚中腸で生じる4つの区画(チェンバー)の分化の指標となる特異的マーカー遺伝子を10同定した. 2.第2~第4チェンバーの分化マーカー遺伝子は,対応する領域の内臓筋で発現するHOX遺伝子Ubx(第2)とabd-A(第3,第4)の機能喪失突然変異胚では,発現を消失する. 3.abd-A変異胚では第2チェンバーのマーカー遺伝子が,第3,第4チェンバーの位置まで発現を拡大した. 4.Ubxによって内臓筋で転写される分泌性シグナル因子Dppが,第2チェンバー上皮の遺伝子発現を誘導するとともに,後方の上皮分化マーカー遺伝子の発現を抑制することが明らかとなった. これらの結果から,ショウジョウバエの中腸では,内胚葉の部域分化が,内臓筋で発現するHOX遺伝子で制御されていること,及び,中腸の体表部の分節構造で知られている,HOX遺伝子の後方優位性が,中腸上皮でも共通に見られること.さらに,内臓筋で働くHOX遺伝子の作用を,隣接する内胚葉に伝えるシグナル因子の候補であるDppが、分化マーカー遺伝子によって,活性化と抑制という異なる作用を及ぼすことによって中腸上皮のパターン形成を制御する,という新しいメカニズムが示唆された.
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