研究課題/領域番号 |
22570205
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村上 柳太郎 山口大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (40182109)
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キーワード | HOX / 内胚葉 / 内臓筋 / 部域分化 / ショウジョウバエ |
研究概要 |
平成23年度の研究実績としては、中腸の後端部で発現しているOddファミリー遺伝子'dmが、HOXの支配を受けておらず、この遺伝子の支配下にあるシグナルによって後腸前端の区画であるsmall intestineが誘導されているととを明らかにしたことがあげられる。この成果は国内国外の学会で発表するとともに、発生生物学の専門誌に掲載された。この研究は、HOX遺伝子に直接関わっていはいないものの、同じ変異胚の中腸の分化が異常になることが同時に判明しており、この遺伝子とHOXの作用の関係が新たな解析の対象とすることができた。 HOXの中腸における機能に関する新たな知見としては、中腸後半部で発現するabd-Aの機能が失われると、その領域の上皮の分化形質発現が生じないこと、さらに、その代わりに、中腸中央部のUbx支配化で発煙する分化マーカーが後半まで拡大することがわかった。この結果は、HOX遺伝子群で知られている「後方優位」の性質に沿ったものと、理解されたが、Ubx abd-Aの2重変異胚では、予想外にも、中腸後半部の分化マーカーの発現が消失しないことがわかった。Ubxは分泌性シグナル因子であるDppの発現を引き起こすことが知られているが、このDppを中腸後半部で強制発現すると、中腸後半部の分化マーカー発現が強く抑制されることがわかった。以上の結果から、中腸後半部の内臓筋で発現するabd-Aは、より前方で発現するUbx発現の後方への拡大を抑制することによって、中腸の分化パターンを制御している、という結論が得られた。この成果は、中腸の部域分化における、HOX遺伝子の役割を理解する上で、非常に重要な発見であると思われる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標の一つであった、中腸の4つのチェンバーの部域分化の指標となるマーカー遺伝子を、どのチェンバーについても複数同定できた。HOXの支配下で分泌されるシグナル因子は、従来から知られていたDppとWg以外には、まだ突き止めるに至っていないが、内臓筋内で、Dppに支配されている遺伝子がいくつか見つかり、これを手がかりとして、内臓筋の作用を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
当初予想していた、「内臓筋で発現するHOX遺伝子群が、内胚葉の部域分化を誘導・支配する」という考えは、Ubxについては当てはまるが、他のHOX遺伝子には当てはまらない、という重要な示唆が得られた。また、HOX遺伝子間相互作用の原則とされてきた「後方優位性」も、必ずしも共通の原理とはいえない、という証拠も得られた。これらの知見は内臓筋のHOX遺伝子の作用の本質に関わるものと考えられるので、今後は、HOX遺伝子の支配下で内臓筋が放出するシグナル因子の同定に加え、HOX遺伝子の、組織レベルでの具体的な機能(内胚葉の細胞分裂制御など)を追及していく予定である。
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